顎顔面矯正とは
顎顔面矯正は、歯を1本ずつ動かして並べる治療ではありません。お子さまの顎の骨の成長する力を利用して、永久歯がきれいに並ぶための「土台」を整える小児矯正です。必要に応じて急速拡大装置などを用いて上顎を広げ、永久歯が並ぶスペースを確保します。
対象は5〜8歳のお子さまです。
一般的な小児矯正(マウスピース矯正など)が「生えてきた歯をどう並べるか」に働きかけるのに対し、顎顔面矯正は「歯が並ぶ場所をどうつくるか」に働きかけます。
骨格が原因で歯並びが乱れているお子さまの場合、土台を整えないまま歯だけを並べても、根本の解決にはなりません。

こんなお子さまは、
顎顔面矯正の対象かもしれません
- 前歯がガタガタに重なって生えてきた
- いつも口がぽかんと開いている・口呼吸をしている
- 寝ているときにいびきをかく
- 受け口・出っ歯が気になる
- 「様子を見ましょう」と言われたが、本当にこのままでいいのか不安
前歯のガタガタや歯並びの乱れの多くは「発育のサイン」です。見た目の問題だけでなく、また、上顎の成長は10歳前後でほぼ完了します。そのため、顎顔面矯正のように成長を利用して骨格へアプローチできる時期は限られています。
「まだ乳歯があるから大丈夫かな」「もう少し様子を見てもいいのかな」と迷われている方も少なくありません。では、なぜ当院では歯並びだけでなく、お子さまの顎の発育まで大切に考えているのでしょうか。
歯並びだけでなく、顎の発育まで考えた矯正治療

前歯のガタガタは、多くの保護者の方が最初に気づく歯並びのサインです。なかでも、「下の前歯がガタガタになってきた」と心配されて受診される方は少なくありません。しかし、実際には、その原因が上顎の発育不足にあるケースが多くみられます。
上顎が十分に発育しないと、永久歯が並ぶためのスペースが不足し、前歯がガタガタに重なって生えてきます。
さらに、上顎は口の天井であると同時に、鼻の床や側壁の一部でもあります。そのため、上顎が狭いと鼻腔も狭くなり、鼻呼吸がしにくくなることがあります。
つまり、歯並びと呼吸は、上顎の発育を通じて深く関わっているのです。
当院では、急速拡大装置やリンガルアーチなどを用いて顎の成長をサポートし、永久歯がきれいに並ぶためのスペースを確保します。さらに、MFT(口腔筋機能療法)を組み合わせることで、舌や唇の正しい使い方など口腔機能の発達を促し、お子さまの顎の発育を総合的にサポートします。
また、治療を始める前には、すべての症例で3Dシミュレーション(クリンチェック)を作成し、治療計画や歯の動きをご確認いただきます。内容をご理解・ご納得いただいたうえで、治療を始めるかどうかをご判断いただけます。
では実際に、私自身の息子の症例をご紹介します。7歳から顎顔面矯正を開始し下顎前歯のガタガタがどのように変化したのかをご覧ください。
症例紹介
私の息子の治療経過

ここでご紹介するのは、私自身の息子の現在進行中の治療経過です。
4歳の乳歯列の時点で将来の歯並びの乱れを予測し、7歳から顎顔面矯正を開始しました。実際にどのような経過をたどっているのかをご紹介します。
4歳──乳歯の段階で、すでにサインは出ていました
写真は、息子が4歳のときの下顎の歯並びです。まだ永久歯は生えておらず、すべて乳歯ですが、この時点ですでに下の前歯4本にガタつきがみられました。
意外に思われるかもしれませんが、乳歯列の理想は「隙間のないきれいな歯並び」ではありません。歯と歯の間に隙間がある状態が理想です。顎がしっかり成長し、ひとまわり大きい大人の歯が生えるだけのスペースが確保されていることが、何より大切だからです。逆に言えば、乳歯の段階でガタつきがあるということは、永久歯が生えたときのガタガタが、この時点である程度予測できるということです。


7歳──永久歯が重なって生えてきました
下の乳歯の前歯4本が抜け、永久歯が生えてきたのが7歳のときの写真です。永久歯(大人の前歯)は乳歯よりおよそ1.2倍大きいため、乳歯のときよりもさらに重なって生えてきているのがわかります。実際、この段階で歯並び相談に来られる親御さんは多くいらっしゃいます。
このガタガタの原因は、歯が並ぶスペースの不足です。そこで詳しく検査を行ったところ、原因は下顎ではなく、上顎の幅が不足していることでした。
また、就寝時にはいびきもみられたため、歯並びだけでなく鼻腔の広さも考慮し、顎顔面矯正を開始しました。
根本原因は、下顎ではなく上顎にありました
下の前歯がガタガタなので、「下顎の成長不足」が原因と考えがちですが、検査でわかった根本的な原因は上顎の成長不足でした。
息子は上顎が小さく、左上の2番目の前歯(側切歯)は、乳歯が抜けたあとも永久歯が生えてこない状態でした。小さい上顎の歯列に合わせるように下の奥歯が内側へ傾いて噛み合うため、その結果、下の前歯が並ぶスペースも不足していたのです。
さらに、就寝時にいびきをかいていたことから、鼻腔の狭さも疑われました。そこで、骨格そのものにアプローチでき、歯が並ぶためのより多くのスペースの獲得が期待できる顎顔面矯正を選択しました。上顎に急速拡大装置、下顎にリンガルアーチを装着して治療を開始しています。
それでは、治療開始から7ヶ月後のお口の変化をご覧ください。

治療開始から7か月後

上顎には急速拡大装置、下顎にはリンガルアーチを装着し、顎顔面矯正を開始しました。現在も治療は継続中ですが、治療開始から7か月で少しずつ歯が並ぶスペースが確保され、歯並びにも変化がみられています。
※現在は急速拡大装置・リンガルアーチともに役割を終えて撤去し、永久歯の生え替わりや顎の発育、歯並びの変化を確認しながら経過観察を行っています。
お子さま一人ひとりに合った治療をご提案します
今回ご紹介したのは、私の息子の症例です。
同じように歯並びが気になっても、その原因や適した治療方法は、お子さま一人ひとり異なります。顎顔面矯正が適しているお子さまもいれば、小児マウスピース矯正やMFT、プレオルソなどを組み合わせた治療が適しているお子さま、経過観察で十分なお子さまもいます。
大切なのは、「どの治療を行うか」ではなく、お子さまのお口の状態を正しく診断し、その子に合った治療方法を選ぶことです。
よくある質問
Q. 何歳から始められますか?
A. 6歳ごろから可能です。最も効果的なタイミングは6〜8歳ですが、受け口の場合は5歳ごろからの開始が理想です。まずは現在のお口の状態を診せていただき、開始のタイミングをご提案します。
Q. 顎顔面矯正の治療期間はどれくらいですか?
A. 顎顔面矯正は、歯を並べることを目的とした矯正ではなく、お子さまの成長に合わせて顎の発育をサポートしていく治療です。そのため、装置を装着している期間だけが治療期間ではありません。
急速拡大装置やリンガルアーチの役割が終わったあとも、永久歯の生え替わりや顎の発育、歯並びの変化を確認しながら経過をみていきます。
一般的には、小学校高学年から中学生頃まで、永久歯の生え替わりや顎の発育を確認しながら治療を進めます。
Q. 急速拡大装置やリンガルアーチは、いつまで装着しますか?
A. 装着期間は、お子さまのお口の状態や治療の進み方によって異なります。
急速拡大装置は約6〜9か月、リンガルアーチは約4か月使用することが多いですが、お子さまの顎の発育や永久歯の生え替わりの状況によっては、装置を再度使用する場合もあります。
それぞれの役割を終えた段階で撤去し、その後は永久歯の生え替わりや顎の発育、歯並びの変化を確認しながら治療を進めます。
Q. 装置をつけて生活に支障はありませんか?
A. 装着直後は違和感や発音のしづらさを感じることがありますが、多くのお子さまは1〜2週間ほどで慣れていきます。食事や歯磨きも少し慣れが必要ですが、多くのお子さまは普段どおり生活されています。装置のお手入れ方法や歯磨きのコツについても丁寧にご説明します。
Q. 痛みはありますか?
A. 装置を広げた直後は違和感や軽い圧迫感を感じることがありますが、強い痛みが続くことはほとんどありません。気になる症状がある場合は、いつでもご相談ください。
Q. 装置をつけたら必ず2期治療が必要ですか?
A. 1期治療(顎顔面矯正)で十分な結果が出た場合は、2期治療が不要になるケースもあります。永久歯が生え揃った時点の状態を確認したうえで判断します。
保護者の方へ
顎顔面矯正は、お子さまだけでなく、保護者の方のご協力があって初めて成り立つ治療です。
ご家庭では、急速拡大装置のネジを回したり、装置が入ったお口の仕上げ磨きをしたりと、新しい習慣が増えます。慣れるまでは、ご負担に感じることもあるかもしれません。
私自身も歯科医師であると同時に、一人の父親として息子の顎顔面矯正を経験しました。だからこそ、治療だけでなく、ご家庭での悩みや不安にも寄り添いながら、一緒に取り組んでいきたいと考えています。
「うちの子は今相談した方がいいのかな?」「まだ様子を見ても大丈夫かな?」と迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。

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