噛めない原因は“奥歯の支え”でした|入れ歯が合わずお悩みの方へ、インプラントで噛み合わせ全体を整えた症例

「食事の時にうまく噛めない」
「入れ歯にはしたくない」
「前歯の見た目も気になってきた」

このようなお悩みで来院された患者さんの症例をご紹介します。

今回の患者さんは、右下の奥歯の一つである第二小臼歯が歯根破折により抜歯となりました。もともと右下の奥歯は過去に2本抜歯されており、右下の合計3本の奥歯を失った状態となったために「噛みにくさ」を強く感じるようになりました。また、「入れ歯はしたくない」というお気持ちがあり、インプラント治療をご希望されていました。

実は患者さんは、これまでに他院で入れ歯を作られたご経験がありましたが、
「違和感が強く、気持ち悪くてほとんど使えなかった」とお話しされていました。
そのため今回の治療は、「できれば入れ歯以外の方法で治したい」というお気持ちを強くお持ちでした。

さらにお口の中を詳しく確認すると、下の前歯6本、左下の小臼歯1本を除き、ほとんどの歯に被せ物やブリッジが装着されており、それらの適合が徐々に悪くなっている状態でした。特に奥歯の支えが弱くなっていたことで、噛み合わせのバランスが崩れ、前歯に過剰な負担がかかっている状態でした。その影響により、上の前歯の歯ぐきとの境目には虫歯ができてしまっていました。

幼少期からむし歯が多く、繰り返しの治療で、被せ物や神経の治療を受けた歯が多いという背景がある一方で、現在はセルフケアをしっかりされており、食生活も含めて生活習慣は良好で、むし歯や歯周病のリスクは比較的低い状態でした。しかし、噛みしめなどによる“力の負担”は強い傾向があり、過去のむし歯による歯質減少と合わさって今まで歯を失った原因になっていたのではないかと考えられました。そして、それが今回も歯の破折につながった可能性が考えられました。

歯科治療では、「悪くなった部分だけを治す」のではなく、「なぜその問題が起きたのか」を考えることがとても重要です。

今回のケースでも、失った歯の部分にインプラントを入れるだけでは、根本的な解決にはならないと判断し、お口全体のバランスを整える治療をご提案しました。

カウンセリングの際、患者さんが
「入れ歯は絶対にイヤで、インプラントで治したいです」
とおっしゃっていたことが、とても印象に残っています。

当院では、こうした患者さんのお気持ちに寄り添いながら、医学的な視点と生活の質の両方を大切にし、治療方針をご提案しています。

Before \After

治療前

正面から見た状態

右側奥歯の状態(下は大臼歯が2本、小臼歯が1本ありません)
左側奥歯の状態(下は大臼歯が1本ありません)

やり直しが必要だった被せものとブリッジ(青色部分)

下の前歯6本、左下の小臼歯1本以外がクラウン(被せもの)、ブリッジで修復されています。

右側奥歯の状態
左側奥歯の状態

治療後

治療前の状態

主訴

奥歯でしっかり噛めない

口腔内の状態

治療前のレントゲン写真(R:右側)

問題点

① 奥歯の支えが失われ、噛み合わせのバランスが崩れている

主訴である「噛みにくさ」に直結する問題です。

右下第二小臼歯(レントゲン写真の×印)が歯根破折により抜歯となったことで、奥歯でしっかり支える箇所が少ない状態になっていました。奥歯は噛む力を支える重要な役割を担っており、この支えが失われると、噛み合わせ全体のバランスが崩れてしまいます。

その結果、本来は奥歯で受け止めるべき力が前歯に集中し、前歯に過剰な負担がかかっている状態となっていました。

② 被せ物・ブリッジの適合不良により、歯の状態が悪化している

下の前歯6本と左下の小臼歯1本を除き、ほとんどの歯に被せ物やブリッジが装着されていましたが、それらの適合が徐々に悪くなっている状態でした。

被せ物と歯の境目に隙間ができると、汚れが溜まりやすくなり、虫歯や歯ぐきの炎症の原因となります。実際に、上の前歯の歯ぐきとの境目には虫歯が認められ、見た目の問題にもつながっていました。

③ 噛みしめなどによる“力の負担”が強く、歯へのダメージが蓄積している

現在はセルフケアや食生活習慣も良好で、むし歯や歯周病のリスクは比較的低い状態でしたが、
一方で日常的に歯に強い力がかかっているサインも見られました。

例えば、歯の根元が少し欠けていたり、歯と歯が強くこすれた跡が見られることから、無意識のうちにグッと噛みしめる癖がある状態が考えられます。

このような力の負担は、歯に少しずつダメージを蓄積させていき、
過去のむし歯による歯質減少と併せて、歯の破折や喪失につながった可能性が高いと考えられました。

④ 噛み合わせをコントロールする“ガイド”が失われ、特定の歯に負担が集中している

本来、歯並びや噛み合わせには「力をうまく逃がす仕組み」があります。

例えば、電車がレールの上を走るように、下あごが横に動いたときには犬歯が“レール”のような役割を果たし、その動きをコントロールします。これにより上下の奥歯同士が強くぶつかるのを防ぎ、歯全体を守っています。

しかし今回のケースでは、そのガイドの役割が十分に機能しておらず、一部の歯に負担が偏ってかかっている状態でした。特に左上の歯には強い力がかかり続けていた影響で、歯を支える周囲の組織にも負担がかかっている所見が認められました。

⑤ 部分的な治療では解決できない「全体のバランスの問題」

このように、

  • 奥歯の支えの不足
  • 前歯への負担の集中
  • 被せ物の劣化
  • 力のコントロール不良

といった問題が重なり合い、噛み合わせ全体のバランスが崩れている状態でした。

そのため、失った部分にインプラントを入れるだけではなく、
👉 お口全体としてバランスよく噛める状態をつくること
が必要と判断しました。

患者さんの治療に対するご希望

  • 入れ歯はできれば避けたい
  • 奥歯はインプラントでしっかり噛めるようにしたい
  • 前歯の見た目もきれいに整えたい

また、過去に他院で、下の写真のような設計の部分入れ歯を製作されたご経験がありましたが、
「違和感が強く、気持ち悪くてほとんど使えなかった」
とのことでした。

部分入れ歯は、欠損部を補うための一般的で有効な治療方法の一つですが、装着時の違和感や使用感については個人差があります。
今回の患者さんの場合は、装着時の違和感が強く、日常的な使用が難しい状態でした。

そのため、今回の治療では入れ歯以外の方法での治療を強く希望されていました。

右下の奥歯が3本欠損している場合によく用いられる部分入れ歯の設計

治療経過

レントゲン写真をもとにした見てわかる治療計画(青色:被せもの・ブリッジのやりかえ 緑色:白い樹脂での治療)

今回の治療計画についてご説明します。

レントゲン写真の黄色の×印の歯は、動揺が大きく予後不良と判断し、抜歯としました。

今回の噛みにくさの主な原因は、右側の小臼歯部における咬合支持の低下にあると考えられました。この部分の支えが弱くなったことで、噛み合わせ全体のバランスが崩れていた状態です。本来、奥歯は小臼歯2本・大臼歯2本の計4ヶ所で噛み合わせを支えていますが、すべてを回復させるのではなく、今回は第一大臼歯までを最遠心とする咬合支持の再構築を目標としました。

これは費用面への配慮に加え、小臼歯から第一大臼歯までの咬合支持が確保されていれば、日常の咀嚼に大きな支障は生じにくいとされているためです。具体的には、右下は不足している奥歯2本分をインプラントで補い、咬合支持の回復を図ります。

上顎については、左側のブリッジの前方の支台となっていた第一小臼歯に強い力の負担がかかっていたため、その負担を軽減し、清掃性にも優れるインプラントを選択しました。

右上についても同様の考え方は適応可能ですが、左側と比較すると症状が強く出ていなかったため、インプラントを行うかどうかは、治療の経過を見ながら慎重に検討していく方針としました。

仮歯の意味

口腔内の全体的な治療では、いきなり最終的な被せ物を入れるのではなく、まずは「仮歯」を使いながら、お口の状態を整えていきます。そして、仮歯は“ただの仮の歯”ではなく、最終的な仕上がりを決める大切なステップです。

仮歯の調整は、靴の「履き心地」に似ています。

靴にはさまざまなブランドやメーカーがあり、それぞれに特徴があります。
見た目が良くて、サイズが合っていても、実際に履いてみると「なんとなくしっくりこない」と感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。一部だけ当たって痛くなったり、歩きにくかったりと、ほんのわずかな違いで履き心地は大きく変わります。

噛み合わせも同じで、歯を作る模型や咬合器という噛み合わせを再現する装置で整っていても、実際のお口の中で違和感なく機能するかどうかは、実際に使ってみて評価していくことが大切になります。一人ひとり筋肉の動きや癖、力のかかり方が違うため、使ってみて初めて分かる部分があるからです。そのため、仮歯を装着した状態で実際に使っていただきながら、少しずつ調整を重ねていくことで、全体にバランスよく力がかかる、自然で快適に噛める状態へと仕上げていきます。

◆ 1stプロビジョナル(最初の仮歯)

目的:お口の環境を整えるための仮歯です

  • 噛み合わせを大まかに整える
  • 歯ぐきの炎症を落ち着かせる
  • 見た目や発音などを一度回復させる
  • 「どんな状態が理想か」を確認するための土台づくり

この段階では、必要に応じて根管治療も行っていきます。
今回は、すでに根管治療が施されていた歯すべてに対して、再根管治療を行いました。

根管治療を順に進めている期間は、患者さんから見ると仮歯の状態が続くため、大きな見た目の変化を感じにくく、不安を感じやすい時期でもあります。そのため当院では、この期間も治療の進捗が分かるようにご説明を行い、安心して治療を受けていただけるよう心がけています。

👉 “リハビリ+方向性を決めるための仮歯”
👉 整える・探る段階

1st プロビジョナル(最初の仮歯)

◆ 2ndプロビジョナル(2回目の精密な仮歯)

目的:最終的な形に近づけて精度を高める仮歯です

  • より正確な噛み合わせに調整
  • 見た目・発音・噛みやすさを細かく仕上げる
  • 歯ぐきや周囲の組織との調和を整える
  • 最終の被せ物の“設計図”として使う

👉 “最終形のシミュレーションをする仮歯”
👉 仕上げに近づける段階

2回目の精密な仮歯

精密な仮歯で全体のバランスを確認した後、最終的な噛み合わせと歯の形へと移行していきます。

なお、精密な仮歯を装着する段階で、右上小臼歯部へのインプラント治療をご希望されたため、上の写真ではインプラント周囲の歯肉を整え、インプラント体を保護する金属製のキャップが見えている状態となっています。

本来は、最初の仮歯を装着する段階でインプラントの適応を決定しておくことが望ましいとされていますが、今回はこの時点でも歯の大きさや形態に大きな変化が生じないことを確認できていたため、このタイミングでの対応が可能と判断しました。

最終的な完成形が以下になります。

◆ 最終の完成形

全ての歯を整えた最終的な状態(正面)|歯ぐきと被せ物が自然に調和し、炎症のない健康的で美しい仕上がりになりました。

治療後のレントゲン写真

右側から見た状態
左側から見た状態

下顎が右に動いたとき、“レール”の役割を果たしている犬歯
(上下の奥歯が強くぶつかるのを防いでいる)
下顎が左に動いたとき、“レール”の役割を果たしている犬歯
(上下の奥歯が強くぶつかるのを防いでいる)

インプラントによって奥歯にしっかりとした支えができたことで、

「食事の時にうまく噛めない」
「入れ歯にはしたくない」
「前歯の見た目も気になってきた」

といったお悩みは解消されました。

治療後は、「何でもしっかり噛めるようになった」「見た目もとてもきれいになった」と、大変ご満足いただけているご様子でした。

そして患者さんからは、

「費用も時間もかかりましたが、最終的には治療を受けて本当に良かったです」
「お金には変えられない価値があります」

というお言葉をいただきました。

治療を通して得られた変化を、そのように感じていただけたことは、歯科医師として何より嬉しく、大きな励みとなっています。

年代性別60代 女性
治療期間約2.5年
費用自由診療総額 ¥4,510,000(税込) 
1st プロビ ¥5,500×14本 =¥77,000
  インプラント用プロビ ¥11,000×2=¥22,000
2nd プロビ ¥11,000×14本=¥154,000
   インプラント用プロビ ¥11,000×2=¥22,000
 手術費用 ¥110,000×3回=¥330,000
 インプラント埋入 ¥253,000×4 =¥1,012,000 
   ソケットリフト ¥165,000
 インプラント上部構造(臼歯) ¥132,000×4=¥528,000
   ジルコニアクラアウン(臼歯) ¥121,000×6=¥726,000
 ジルコニアクラウン(前歯) ¥143,000×6=¥858,000 
 精密根管治療(前歯) ¥55,000×6=¥330,000
 精密根管治療(小臼歯) ¥66,000×2=¥132,000
 精密根管治療(大臼歯) ¥77,000×2=¥154,000
リスク・副作用各治療には以下のようなリスク・副作用があります。症状や個人差により程度は異なります。
・外科処置を伴う治療では、腫れ・痛み・内出血・神経損傷・出血などが生じる可能性があります
・骨や歯周組織の状態、全身状態により、治療の適応や成功率に差が生じる場合があります
・インプラントや歯周治療後は、清掃不良により炎症(インプラント周囲炎・歯周病)が再発することがあります
・補綴治療では、歯の切削や素材によるアレルギー、破損・脱離の可能性があります
・生活習慣(喫煙・糖尿病など)やセルフケア状況により、治療結果や予後に影響が出ることがあります
※治療はすべて個々の状態に応じて行うものであり、同様の結果を保証するものではありません。

監修者情報

経歴

京都教育大学附属高等学校卒業

大阪大学歯学部卒業

大阪大学大学院歯学研究科博士課程修了

医療法人健昌会なかたに歯科クリニック勤務

T’s歯科クリニック院長

藤田歯科副院長